私は峠を越えて××村へやって来た。
村は春真っ盛りであった。 桜が満開であった。 用水路にはきれいな水が流れていた。 村はずれに、白木造りの奇妙な建物があった。 それは、神社のようでもあり、倉庫のようでもあった。 庭に面して、円形の扉があった。 私はそれを便所の扉だと思った。 扉は少し開いていた。 その隙間が恐ろしかった。 中から、得体の知れないものが飛び出して、私を引きずり込むのではあるまいか。 そう思ったとたんに金縛りにかかって、身動きができなくなった。 私は大声で助けを呼んだ。 スポンサーサイト
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本社の部長から呼び出された。
店の図面と従業員の写真を持って本社へ来いという。 俺は、鏡ヶ里という地方都市にある、大手資本傘下のスーパーマーケットの店長をしている。 「今度、小野寺新一氏が3ヶ月間、鏡ヶ里店の店長になることになった。 知ってのとおり新一氏は社長の御令息で、将来は社長になる人物だ。 現場を肌で体験する必要があるのだ。 君は副店長として新一氏を補佐し、実質的に店をきりもりして欲しい。 なに、格下げでは断じてない。待遇は今のままだ。 無事に3ヶ月を過ごせたら、栄転もあり得る。 鏡ヶ里は、社長が戦時疎開で幼少時を過ごしたところで、特別な意味がある。 社長直々の命令だ。逆らうことはできんよ。 ところで、店の図面は持ってきているね。」 と部長は一気に言った。 俺は図面を広げた。 「店長室はないのだね。」 「はい、ワンフロアの事務室に店長の机があるだけです。」 「それはまずい。新一氏には専用の店長室が必要だ。 専用トイレ、シャワー室、応接セットを置く必要がある。」 「そんなスペースはありません。」 部長は図面を指さして言った。 「ここの従業員の更衣室と休養室と仮眠室をつぶせばいい。 新一氏は一流品でないと承知しない方だから、机も、椅子も、じゅうたんも最高級品を揃える必要がある。パソコンも最新の一番高性能なもので、インターネット用の高速専用回線を引く必要がある。 そのほかテレビや冷蔵庫やオーディオセットも必要だ。」 俺はあきれて、反発した。 「客用のトイレや駐車場の改修をお願いしても、予算がないからと断られているのに、そんな余計な出費が許されるのですか。」 「君も管理職だし、もう若くはないんだから、余計な反発はしない方がいいね。」 と言って部長はいやらしい笑い顔をした。 「従業員の写真は持ってきたろうね。」 俺は写真を出した。 部長は写真をながめて言った。 「ああ、この3名は解雇するように。 新一氏は不細工な女が大嫌いだからね。」 「次に、これは一番重要なことだが、新一氏の在任中に売り上げが落ちたら大変なことになる。 連日採算無視の大バーゲンをやって欲しい。」 「そんなことしたら収益がひどく悪化しますが。」 「決算は9ヶ月後だ。残りの6ヶ月で挽回すればいい。」 そんなことは不可能だ。赤字決算となるに決まっている。そしてそれは俺の責任になるのだ。 俺は退職を決意した。 こんな会社に将来があろうはずがない。 こんなこともあろうかと、以前から密かに私物化していた顧客情報などの企業秘密を手土産に、ライバル会社へ転職しようと思う。 |
有馬せんという名前の人がいました。
「お名前は?」 「ありません」 家間さんという人と結婚しました。 「お名前は?」 「いえません」 家間さんと離婚して尻間さんという人と再婚しました。 「お名前は?」 「しりません」 尻間さんと離婚して和刈間さんという人と再婚しました。 「お名前は?」 「わかりません」 だからどうしたと言われても困ります。 |
結小田さんという人がいました。
長男の名前は結小田整といいました。 次男の名前は結小田燦といいました。 三男の名前は結小田爽といいました。 四男の名前は結小田志太といいました。 だからどうしたと言われても困ります。 |
私は言葉がないと曲ができない。
言葉のついていない曲想は、思い浮かぶそばから忘れてしまう。 インスツルメンタルというのは、完成したためしがない。 最近は体をいたわりすぎているためか、気の利いた言葉が出てこない。 ひとつインスツルメンタルでも試みるかと思い、ベッドに入った。 (何か間違っているような気もするが・・・) 脳内即興演奏である。 最初は自由に音を遊ばせてみる。 調性がほとんどない状態。新ウイーン楽派の卑俗な模倣みたいだ。 少し手綱を締めて調性に留まるようにすると、ショスタコーヴィッチの卑俗な模倣みたいになる。 もっと手綱を締めると、北朝鮮歌曲の卑俗な模倣みたいになる。 ポップな曲想など全く出てこない。 まあ、私の才能なんてこの程度だと思い、寝ることにした。 猫がうるさい。近所に猫を飼っている家はないので、野良猫だろう。 ひとしきり猫が騒いだあと、今度は犬が吠えだした。 あちこちで吠えている。人の声もする。 時計を見ると3時である。 まずい、寝なければと思ったが眠れない。 頭の中で不愉快な音楽が鳴っている。 そのうち小鳥がさえずりだした。 バイクの音がする。 新聞配達が来た。 とうとう朝になってしまった。 ということで、インスツルメンタルを考えるのは体に良くないという結論になった。 |
幼稚園に入る以前の話である。
僕は小学校のとなりの空き地で、あかまんまをとっていた。 あかまんまというのは、イヌダテのことで、ままごとで赤飯に見立てて使う。 校庭では朝礼をやっていた。 校長先生がマイクで話をしているが、遠くて何を言っているのかわからない。 すると突然、「あかまんまをとってはいけません」と言ったような気がした。 僕はびっくりして逃げた。 ころんでひざをすりむいた。 親に、ひざをすりむいたわけを問い詰められたが、 「あかまんまをとっておこられた」と泣くばかりであった。 |
小学校はとなり町にあり、家から遠いので、僕は桶屋のおじさんが運転する田植機に乗せてもらって、学校へ通っていた。
魚屋のおじさんのライトバンに乗せてもらって、学校へ通う子もいた。 八百屋のおじさんのワゴン車に乗ってくる子もいた。 植木屋のおじさんのトラックに乗ってくる子もいた。 車を持っている人達が、学校が遠い子どもたちのために、奉仕してくれるのだ。 「でも、桶屋のおじさんじゃだめですね。」 と先生が言ったので、僕は困ってしまった。 考えてみれば、桶屋のおじさんが、田植機を運転するのは変だ。 これはきっと夢だろうと思った。 |
来年は東京でオリムピックが開催されると云ふ年に、映画館でロオマオリムピックの記録映画を見た。
陛下の入場場面が強く印象に残ってゐる。 「陛下の入場です。」というアナウンスがあって、燃える棒を持った男が競技場を駆け抜けた。 あの燃える棒を持って走ってゐるのが、イタリヤの陛下なのかと思ひ、不思議な感銘を受けた。 東京でオリムピックが開催されたら、日本の陛下も、燃える棒を持って走らなければならないのだらうか。イタリヤの陛下は若さうだから良いが、日本の陛下はお年なのだから大丈夫だらうかと心配になった。 後になって「陛下」は「聖火」の聞き違ひだと解かって安心したが、聞き違ひは漢字で書けば良いが、新仮名遣ひだと、ききちがいとなり、不適切な表現だとして、編集者に訂正される恐れがあると思ふ。 |
私の家の近くに学校があります。
その学校では、あいさつ運動というのをやっていて、朝早くから校門の前に当番の生徒が並んで、登校してくる生徒に「タヨンデギヤース」と大きな声で呼びかけています。 さて「タヨンデギヤース」とはどういう意味なのでしょうか。 いつから、朝のあいさつを「タヨンデギヤース」と言うようになったのでしょうか。 駅へ行くと、駅員が「タサンデギヤース」と乗客に呼びかけています。 会社へ行ったら社員が「タホンデギヤース」と言っています。 組織によって挨拶が違うようです。 所用があって、官庁へ行ったら「タランデギヤース」と言われました。 喫茶店に行ったら「タキャンデギヤース」と言われました。 いったい日本語はどうなってしまったのでしょう。 |
数年前、証券会社にだまされて株を買ったのだが、株価はずっと低迷して悲惨な状態だった。
それがどうしたことか、数日前から急激に値上がりしている。 さっそく株を売ろうと証券会社に電話した。 「もしもし、ドグラマグラ商会の株を売りたいのだが。」 「それはできません。そんな勝手なことは許されません。」 「なんだと、俺は客だぞ。客の俺が自分の株を売って何が悪い。」 「いいえっ、お客様は私どもが買えと言ったときに買い、売れと言ったときに売ればいいのです。」 「それじゃ儲からないじゃないか。」 「そうです。株で儲ける人はあらかじめ決まっているのです。 秘密会員のみが利益を得る権利を持っているのです。 一般のお客様はひたすら損をするシステムになっているのです。」 「そんな馬鹿な、じゃ俺をその秘密会員とやらにしてくれ。」 「秘密会員になるのは、会員3人以上の推薦が必要です。 推薦のあった人に対しては、厳重な身上調査が行われます。 まず、十分な資産を持っている必要があります。 また、親類に犯罪者や共産主義者がいればアウトです。 ただし、犯罪者といっても、贈収賄や脱税や選挙違反は差し支えありません。 入会金は五千万円です。年会費は五百万円です。 このほか株売買の利益の1割を会に納めなければなりません。 会の秘密は厳守です。そのような会が存在すること自体秘密にしなければなりません。 秘密を漏らした者は暗殺されます。」 「でも、あんた、もうすでに秘密を漏らしているじゃないか。」 「あっ、しまった、ついうっかり・・・」 突然、受話器の向こうに銃声が響いた。 「もしもし! もしもし!」 「ツーッ ツーッ ツーッ」 |
たらみユーイチさんから、ミュージックバトンというものを渡されました。
これって不幸の手紙のようなものなのでしょうか?(笑) とりあえず質問に答えてみます。 1. Total volume of music files on my computer (コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量) 全部で4.3GBほど MP3が2.9GB aiffとかwavとかが1.4GB 2. Song playing right now (今聞いている曲) MP3約800曲をランダムで再生しているのですが, 今たまたまかかっているのが、 スミュート 「春色のソナタ」 3. The last CD I bought (最後に買ったCD) 最近全然CDを買っていません。 まゆ 「結婚のうた」が最後かもしれません。 これはご本人から直接通販で買いました。 4. Five songs(tunes) I listen to a lot, or hat mean a lot to me (よく聞く、または特別な思い入れのある5曲) わあ、難問だなあ。 ポピュラー音楽限定で、あまり深く考えずに思いつくまま書いてみましょう。 ニニウインシュェ 「トー・アルー」 めくるめくミャンマータンズィンの世界。 ディープなサウンドのせめぎあい。 もう、たまりわせんわの世界なのです。 ![]() メースィ 「アーナバデヘ」 しっとり系。夢見るような美しい旋律です。 ![]() ヘーマーネーウイン 「シュェ・ラタダ」 まったり系。こういうのが本当の癒し系だと思いますけど。 ![]() チンタラー・プーンラープ 「アムナート・ラック」 この人の声好きです。宇多田ヒカルより良い(笑)。 スター街道を登る途上の輝きをとらえた録音だと思います。 ![]() プンプワン・ドゥァンチャン 「ナクローン・バーンノーク」 私の心にはプンプワンは永遠に生きています。 旧バージョン ![]() 新バージョン ![]() ざっと5曲あげてみましたが、どれもアジアの昔の歌ばかり。 それもCDではなくカセットです。 カナ表記がおかしいと突っ込みがあるかもしれません。 まあ趣味の世界ですからかんべんしてください。 5. Five people to whom I'm passing the baton (バトンを渡す5人) えっ、だれか指名するの? こまったなあ。 ひきこもり系なんで、ネット上に親しい人はいないんですよ。 だれでもいいから受け取って!(卑怯者) わたしは不幸になるでしょうか? |
買いものに行くと、不愉快な気分になることがよくあります。
今日もスーパーで、不細工なおばさんが、「領収書ください。」と言っている場面に出くわしました。 店員は、ちょっとあきれた様子でしたが、客の命令ですから領収書を書いています。 「おいおい、これって、あんたの家で食うものだろう。 経費で落とすつもりかよ。 この非国民の脱税ババアめ。」 とか言ってやりたかったのですが、がまんしました。 そんなことを言ったら、 「文句があるなら脱サラしてみろ! この安月給の腰弁野郎め。」 とか言い返されそうな雰囲気でしたから・・・ それに、相手には政府与党がついていますから勝ち目がありません。 そりゃあ一目瞭然。 |
息が臭い上司の命令は聞かなくともいいという画期的な判決が出ました。
Aさんはある中堅企業に勤めるサラリーマンでしたが、上司のT氏の口臭が耐え難く、T氏が何か言おうとすると、すばやく身をかわして逃げていました。 その結果Aさんは、勤務態度不良として解雇されたのです。 Aさんは、解雇は無効だとして裁判に訴えました。 裁判では、T氏の口臭は、許容限度を超えると認定され、解雇は無効となりました。 T氏は、自分の口臭を全く認めようとせず、出廷のときも口臭対策を全く行っていませんでした。 そのため、遠く離れた裁判官席までT氏の口臭が漂い、裁判官の心証を著しく害したことが敗因だったようです。 この判決以来、勤労意欲の乏しい労働者は、上司が何か命令をしようとすると、 「くせええっ」と叫んで鼻をつまんで逃げるようになりました。 経済団体は、この事態を日本経済存続の危機であるとして、「口臭は我慢しろ」というキャンペーンを行うということです。 |
中学校の同級生だったトモ君は、いじけた性格で、まじめに努力している級友をあざ笑い、馬鹿にしていました。
成績の良い級友を、「ガリ勉野郎」とか「点取り虫」とか言って非難していました。 トモ君の成績はクラスの中くらいでしたが、家では全く勉強をしていないと公言し、全く勉強していないのにこの成績だから、俺は頭がいいんだと自慢していました。 そして、真の実力は抜き打ちテストで試されると言って、教師に抜き打ちテストをするよう執拗に要請しました。 また、トモ君はスポーツが大嫌いで、懸命にトレーニングに励む運動部員を嘲笑し侮辱しました。 そのため、トモ君は上級生の怒りを買い、呼び出されて制裁を受けました。 それ以来、トモ君の性格はいっそうねじ曲がり、努力とか根性とか友情とかいう言葉を心底嫌悪するようになったのです。 私も何度もトモ君の被害にあいました。 一例をあげれば、こんな風です。 マラソン大会のとき、私は新品の靴をはいていました。 トモ君はその靴を見て、 「いい靴だな。金持ちだな。お前の親はあくどくもうけているんだろうな。 そんないい靴を履いているんだから、さぞかし速いだろうな。 遅かったら笑いものだな。恥ずかしいな。へへへ。」 と、ネチネチからんだのです。 私はマラソンの途中でころんでしまい、足を傷めて、やっとのことで完走したのですが、順位はかなり後ろでした。 すると、さっそくトモ君がやってきて、 「いい靴を履いても、のろまはやっぱりのろまだな。 ああ恥ずかしい。そんなざまでよく生きていられるな。死ね。」 と言ったのです。 今思い返しても腹が立ちます。 風の便りで、トモ君が公立学校の教師になったと聞いた私は、我が耳を疑いました。 なんということでしょう。信じられない話です。 有力な政治家のコネでもあったのでしょうか。 あるいは、中学時代から右翼的な言動をしていたので、そのあたりが評価されたのかもしれません。 トモ君は、いったいどんな授業をしているのでしょうか。 きっと宿題なんて出さないのでしょうね。 「家で勉強する奴は馬鹿だ」なんて言ってるのでしょうね。 成績は抜き打ちテストだけで判定しているのでしょうね。 まさか運動部の顧問なんかやってないでしょうね。 おい、どうなんだ、このやろう! |
村役場に許可をもらおうと申請に行ったら、これは村条例に抵触するので許可できないと言われました。
「なんとかなりませんか。これが認められないと私たちは破産です。首を吊らなくてはなりません。お願いです。なんとかしてください。」 と粘ったら、 「う~ん。村役場ではどうにもなりませんが、『トビ役場』なら何とかなるかもしれません。場所を教えますので、行って相談してみたらどうでしょう。」 と言って、地図を書いてくれました。 『トビ役場』というのは、村はずれにあるディスコみたいな建物です。 中では、派手な服装をした若者が、 「アチャー」とか「ウヒョー」とか叫んで飛び跳ねています。 「あのう、ここが『トビ役場』ですか・・・」 とおずおずとたずねると、 「そうだよ~ん」 と若者が軽い調子で答えます。 こんな若僧に許可権限があるのだろうかと不審に思いながらも、 「実は・・・」 と言って用件を伝えると、 「ブーッ。これダメダ~メ。うちじゃ無理よ~ん。」 と冷たい返事。 「そこを何とか・・・」と粘ると、 「じゃ、『イガイガ役場』へ行ってみたら~。なんとかなるかもしれないよ~ん。」 と言って、地図を書いてくれました。 『イガイガ役場』というのは、村はずれにある道場のような建物です。 中では、柔道着を着た若者が、 「エイヤーッ」とか「トリャーッ」とか叫んで稽古をしています。 「何か御用でしょうか。」 とイガグリ頭のたくましい好青年が、汗をふきふき応対に出ました。 これは頼りになりそうだと思い、 「実は・・・」 と言って用件を伝えると。 「誠に残念ですが、ここでは許可できません。」 と冷たい返事。 「そこを何とか・・・」と粘ると、 「それでは『ドン役場』へ行ってみたらいかがでしょう。」 私はついに勘忍袋の緒が切れて、 「いいかげんにしろ。トビ役場だのイガイガ役場だのわけのわからないことを言って、今度はドン役場だと? 人を馬鹿にするな。」 と叫んでしまいました。 青年は「まあまあ落ち着いて。『ドン役場』へ行けはきっとなんとかなりますから。」 と言って地図を書いてくれました。 『ドン役場』というのは、村はずれにある砦のような建物です。 玄関で「ごめんください」と呼ぶと、ドドドドンと太鼓がなって、和服姿のぎょろ目の大男が、のっそりと現われました。 「ここは『ドン役場』ですか?」と聞くと、 「いかにも、ここがドン役場でごわす。して用件は?」 と野太い声でたずねるので、 「実は・・・」 と言って用件を伝えると、 「おいどんにお任せあれ。」と男は力強く言って、胸をどんと叩きました。 数日後、無事許可がおりました。 私たちはお祝いに宴会を開きました。 酒を飲んでみんなで歌いました。 ♪ハァ 村役場にトビ役場 ♪イガイガ役場にドン役場 ♪天丼高いぞいまいましい ♪牛丼まずいぞいまいましい |
その街をわたしは「たそがれの街」と呼んでいます。
なぜなら、いつ来てもその街は薄暗いからです。 たそがれの街は交通の要所で、世界各地に通じています。 長距離列車に乗れは、ビエンチャン経由でマンダレーまで行けます。 地下鉄に乗ればソウルがまで行けます。 電車に乗れば大阪まで行けます。 ジェットコースターに乗れば香港まで行けます。 その日、私は地下鉄でソウルへ行きました。 1時間ほど地下を走ってから、地上に出ました。 左手に海が見えます。右手は深い森です。 陽射しが強く、汗が吹出ました。 やがて、再び地下に入りました。 涼しくなったので、わたしは眠ってしまいました。 目がさめると、ソウルに着いていました。 いつのまにか夜になっていました。 ソウル駅は出口が二つあり、一方は盛り場に、一方は住宅街に出ます。 わたしは住宅街の方に出ました。 ぐねぐねと曲がる舗道を歩いて行くと、徐々に風景が変ってきました。 やがて、西洋の古都のような風情の一角にたどりつきました。 ここはどこだとたずねたところ、ウイーンだという答えが返ってきました。 わたしは空腹を覚えたので、レストランに入りました。 すると、そこには高校時代のガールフレンドがいました。 彼女は高校時代と全く変っていません。 また、つきあいましょうと約束しました。 それから、彼女は「ちょっとトイレ」と言って席を立ち、そのまま帰って来ませんでした。 1時間ほど待ちましたが、らちがあかないので、わたしはレストランの裏手に回ってみました。 そこは広い芝生になっていました。 遠くからボールが飛んできます。ゴルフ場です。 ここは危険だと察知したわたしは、空中に浮かびました。 どんどん上昇していきました。 ウイーンの街並みが一望に見渡せる高さまで上昇しました。 やがて徐々に高度を下げて、高速道路の上に着地しました。 高速道路は非常に高い高架で、建物ははるか下に見おろせます。 北へ行くとニューヨークという標識があったので、わたしはニューヨークへ行くことにしました。 高速道路上をとぼとぼと歩いていきました。 やがて右下に煉瓦造りの大きな建物が見えました。 屋上に「ニューヨーク州立大学」という看板が掲げてあります。 もうニューヨークまで来たのかと不思議に思いました。 それ以上に不思議だったのは、「ニューヨーク州立大学」の看板が日本語で書いてあったことでした。 |
ピンポ~ン
「こんばんは~。」 「わわわ、で、で、出たあ~。」 「ど、どうしました。」 「どうしたもへったくれもあるか。お前は『こんばんは』だな。」 「僕は仏壇のセールスマンです。何ですか、その『こんばんは』って。」 「なんですかもかんですかもあるか。たった今『こんばんは』と名のったじゃないか。」 「そりゃ夜ですからね。言いますよ『こんばんは』って。それより仏壇買ってください。」 「とぼけるな。『こんばんは』から仏壇など買えるか。わしは子供の頃よく言われたもんだ。悪さをすると『こんばんは』が来るってな。」 「まあ落ち着いてください。僕は『こんばんは』じゃありません。仏壇売って15年。まじめで正しいセールスマンです。」 「まじめで正しいセールスマンが、なんで『こんばんは』なんて言うんだ。」 「ですから挨拶ですよ。昼間だったら『こんにちは』って言いますよ。」 「なにい、『こんにちは』だと? ますます怪しい。妖怪変化は出て行け!」 |
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