前任者から、あの女には気を付けろと注意されていたのに、あまりの傍若無人さにがまんができず、怒鳴ってしまった。
なにしろ、仕事をまったくしない。 電話で友達とぺちゃくちゃしゃべっている。 静かになったと思ったら、パソコンでチャットをやっている。 自分の席で堂々と化粧をする。 席を離れれば2~3時間は戻ってこない。 終業時間になると、残った仕事を全部同僚に押しつけて、大慌てで退社する。 しかし誰もその女に注意をしない。 腫物に触るような扱いである。 女は増長して女王様気取りである。 何か深い事情があるのだろうが、おれはそんな特別扱いを許さない。 呼びつけて説教したが、むくれて俺の言うことなど聞こうとしない。 俺はたまりかねて怒鳴ってしまった。 女は、ぷっとふくれて飛び出して行ったまま戻ってこなかった。 しばらくして、俺は某重役に呼ばれた。 そこで即刻「社史編集室」へ異動を命ぜられた。 あとで知ったことだが、あの女は幹部社員専用の公衆便所で、多くの幹部の弱味を握っているのだという。 気に入らない上司を左遷させるなどお手のもののようだ。 こんな人事管理の乱れた会社に未来はない。 といって、今すぐに辞めるわけにもいかない。 俺は観念して社史編集室へ向かった。 そこは、ビルの地下にあった。 ドアを開けると、異臭が鼻をついた。 10坪ほどの事務室に、7人の老人がいる。 それが「うわ~」とか「おえ~」などどうなっている。 並の老人ではない。80・90代と思われる高齢者だ。 彼らは、創業時からの社員で、特別の功績があったために、定年制の適用が除外され、死ぬまで勤務を許されているのだという。 みんな一応席についてはいるが、もちろん仕事などしていない。 全員が体が不自由で、大小便をタレ流している者もいる。 まるで特別養護老人ホームの一室のようだ。 さて、俺の仕事は、この老人たちの介護だ。 食事や排便や身の回りの世話と、家までの送迎が主な仕事だ。 その合い間に、「社史」の原稿を書く。 老人たちは会社の生き証人だ。 認知症の進んだ老人から昔の話を聞き出すのは、やっかいな仕事だが、常にプラス思考の俺は、立派な社史を作りあげようと燃えている。 (当然のことですが、これはフィクションです) スポンサーサイト
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