子供の頃から、知らない街で道に迷った夢をよく見た。
乗った電車が反対方向へ行ってしまったり、道路が迷路状でどうしても目標地点に行けなかったりする。 しかしこれは悪夢ではなく楽しい夢だ。 迷っているうちに、素敵な風景に出くわしたり、不思議な出来事に遭遇したりする。 その結果、自分が何者で、どこへ行こうとしていたのかを忘れてしまい、気の向くままに旅をつづけることになってしまう。 ただ内心には、絶えず言い様のない不安とあせりを抱いているので、一カ所に止まることは決してない。 こう書くと、いかにも長い夢を見ているようだが、実際は目覚め前の一瞬の記憶に過ぎないのではないかと思う。 時には楽しい夢が一瞬のうちに悪夢に転じることがある。 自分が何者であるかを思い出し、突如現実に呼戻される。重大なことを忘れていて、もう取返しがつかない事態になっている。 たとえば、私は新婚早々の妻を家に残して旅に出ている。 いつものように道に迷っているうちに、自分が何者であるかを忘れていまい、旅先で出会った友人とジャングルを探検している。 すると目の前に傾いた大きな煙突が現れる。 それがごみ焼却場の廃墟であると気づいたとたん、妻のことを思い出し、急いで家に帰る。 しかし妻は、食事もとらず、ひたすら私を待ち続け、すでに白骨となっていた! 私は、寂しい顔をして窓辺に座っている妻の姿を思い浮べて号泣し、自殺しようとするが、同行していた友人が止める。 この夢を見たのは高校生の時だから、もうずいぶん前のことだが、私の新婚所帯である小川の縁に建つ山小屋風の小さな家と、庭の大きな蜜柑の木と、悲しそうな妻の顔を鮮明に記憶している。いずれも現実には心当りがない映像だが、ずっとあとになって、夢の中の妻とよく似た表情をする女性には出会っている。 スポンサーサイト
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