某国は、急速な経済成長をとげたが、経済政策や税制が著しく不公平であったため、貧富の差が極端に広がり、人口の1%に過ぎない富裕層が、富の9割を保有するという不平等社会になってしまった。
幸いなことに、生活必需品の物価が安いため、庶民はなんとか衣食はまかなえたが、住宅事情は劣悪であった。 加えて農村の疲弊により、都市に急激に人口が集中したので、深刻な住宅難になってしまった。 庶民は足を伸ばして寝る余裕もないほどの狭い部屋で、息を殺して生活していた。 劣悪な居住環境が原因で、多くの不幸な事件が発生した。 こうした庶民の怨嗟の声に応えるかのように、金持ちの邸宅に放火する一団が発生した。 彼らは、厳重な警備をかいくぐり、金持ちの邸宅を放火して回った。 その手際は実にあざやかで、軍の特殊部隊も舌を巻くほどであった。 消防はもっぱら延焼を防ぐことに懸命で、邸宅の消火活動はしなかった。 消防士自身が、雨漏りのする4畳半一間に、乳飲み子を含む家族5人で暮らしているので、内心「いい気味だ」と思っていたからだ。 警察の捜査も遅々として進まなかった。 警察官自身が、すきま風が吹き込む6畳一間に、寝たきり老人を含む家族6人で暮らしているので、内心「ざまあみろ」と思っていたからだ。 地域住民は防犯に協力しなかった。 みんな住宅難にあえいでいるので、「天罰だ」と思っていたからだ。 それどころか、積極的に放火魔に協力する者も少なくなかった。 放火魔は文字通り燎原の火となって、連日連夜金持ちの邸宅を放火しまくった。 彼らは庶民の英雄となった。 金持ちは警備を厳重にしたが、警備員の士気は極めて低かった。 警備員自身が、空き地に所有者に無断で廃材で建てた掘っ建て小屋に住んでいるので、内心「放火魔がんばれ」と思っていたからだ。 こうして、わずか半年の間に、ほとんどの金持ちの邸宅が焼かれてしまった。 家を焼かれた金持の中には、前にも増して豪奢な邸宅を再建した者もいたが、完成するやいなや放火されてしまった。 保険会社は大赤字となり次々と倒産した。 生き残った保険会社も、高額な邸宅の火災保険は取り扱わないようになった。 金持ちはホテル暮らしを余儀なくされたが、今度は金持ちが投宿しているホテルが放火魔に狙われることとなった。 金持ちは火におびえ、発狂するものも続出した。 やむなく、金持ちは小さな粗末な家を建て、普段はそこで質素に暮らし、週末だけ 国外に建てた豪奢な別荘で金持ち気分を味わうこととした。 かくして某国は、家を見ただけでは貧富の差がわからないという、世にも不思議な国になった。 スポンサーサイト
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